OSS起点でE2Eテスト向けSaaS「Currents」へ発展させた創業者 Andrew Goldis
Andrew Goldisは、自身の現場課題を解決するために作ったOSSを起点に、E2Eテスト向けSaaS「Currents」へ発展させた創業者だ。Cypress運用の痛みを深く理解したうえで、導入しやすい代替手段として磨き込み、開発チーム向けの継続課金モデルへつなげた点が特徴である。
- 10〜50万円
- SaaS
- 生産性/汎用
- コミュニティ
概要
Andrew Goldisは、開発組織での実務中に見つけた課題を出発点に、テスト基盤向けSaaS「Currents」を育てた創業者である。もともとは2019年、ブラウザテストを大規模に回す際の不便さに対応するため、OSSの「sorry-cypress」を作成。その後、企業ユーザーにとってはOSS支援よりも購入しやすい形が必要だと判断し、2021年にSaaSとしてCurrentsへ展開した。
現在のCurrentsは、CypressやPlaywrightを使うチーム向けに、テスト結果の収集、可視化、並列実行の最適化、不安定テストの検知などをまとめて提供する。MicroConf掲載時点では6桁ARRの段階にあり、その後TinySeedにも採択。2026年時点の公式サイトでは、Vancouverを拠点とするAndrewがFounder/CEOを務め、グローバルなリモートチームで運営していることが確認できる。
ビジネスモデル
Currentsの核は、CI上で大量に走るE2Eテストの運用を楽にするB2B SaaSだ。単なるテスト保存庫ではなく、テスト実行の進行把握、失敗原因の追跡、 flaky test の発見、分析レポート、各種連携までを一体化している。
料金体系はサブスクリプション型で、月額プランと年額プランを用意。課金の基準は主にテスト結果数で、利用量が増えるほど単価が逓減する設計になっている。公開中の価格ページでは、Scaleプランが月49ドルから、Businessプランが月99ドルからとなっており、Enterpriseは個別見積もりだ。
立ち上がり方も興味深い。先にOSSがあり、その利用者の中から「運用を自前で抱えたくない企業」をSaaSへ転換している。つまり、広告先行ではなく、プロダクト使用体験そのものが需要検証を兼ねていた形だ。さらに、Cypress Cloudの代替として導入しやすい立ち位置を打ち出しつつ、Playwright対応を厚くして対象市場を広げている。
収益規模
MicroConfの記事では、Currentsは「6-Figure ARR」の段階と整理されている。年次経常売上で少なくとも10万ドル超の水準に到達していたことを示すため、月次換算ではおおむね10万円超〜500万円未満のレンジに収まる可能性が高い。
一方で、正確なMRRや月商の開示までは確認できなかった。したがって、詳細な収益額は非公開とみるのが妥当だ。ただし、2023年時点でMicroConf上ではチーム4名体制への拡張が触れられ、2026年の公式Aboutページではさらにチームメンバーが増えているため、創業者一人の副業プロジェクトから、継続運営される小規模SaaS企業へ進化したことは読み取れる。
学べるポイント
1つ目は、アイデアの起点が「自分の現場の面倒ごと」だったことだ。抽象的な市場調査から入るのではなく、日々の業務で繰り返し発生する痛みを解消した。そのため、誰向けのプロダクトか、どの瞬間に価値が出るかが初期から明確だった。
2つ目は、OSSをそのまま収益化しようとせず、企業が買いやすい運用形態へ作り替えた点である。OSSは支持を集めやすいが、会社の予算で導入されるには、サポート、安定運用、請求、権限管理などが必要になる。CurrentsはそこをSaaSとして整え、導入ハードルを下げた。
3つ目は、プロダクトの位置づけがわかりやすいことだ。Cypress Cloudの代替、あるいはテスト可視化と運用改善の基盤、という説明が通りやすい。既存のワークフローに対して「何を置き換えるのか」「何が良くなるのか」が伝わるサービスは、開発者向けでも営業しやすい。
4つ目は、創業者自身がコミュニティを経営の補助線にした点である。AndrewはIndie Hackers、MicroConf Connect、Mastermind、TinySeedといった場を通じて、独立判断や事業化の解像度を高めていった。プロダクトだけで走るのではなく、意思決定を磨く環境を持ったことも前進の要因だろう。
日本での再現可能性
一定の条件つきで再現余地はある。特に日本でも、SaaS企業やWebサービス運営会社ではE2Eテスト運用の負荷、不安定テスト、CIコスト、テスト結果の可視化不足は珍しくない。開発者向けインフラ領域は派手ではないが、いったん必要性が認識されると継続利用されやすい。
ただし、そのまま同じ形で再現するのは簡単ではない。理由は2つある。1つは、Andrewの強みが深い現場理解とOSS起点の信頼形成にあったこと。もう1つは、対象ユーザーがグローバルの開発チームで、英語圏OSSコミュニティとの接続が初期成長に効きやすかったことだ。
日本で近いモデルを狙うなら、テスト基盤そのものよりも、国内開発組織が強く困っている特定テーマに寄せる方が現実的かもしれない。たとえばQA自動化の導入支援、CIコスト削減、テスト失敗の原因分類、あるいは日本企業向けの権限管理や監査要件対応などで切り込む余地はある。要するに、OSSや無料ツールでは埋まりきらない運用負荷を、継続課金の形で吸収できるかが勝負になる。
出典
コメント
Andrew Goldisの事例は、「開発者が自分の困りごとを解決した副産物」が、きちんとした事業へ変わる流れをよく示している。面白いのは、最初から大市場を狙ったというより、実務上の摩擦を丁寧に拾い、その後で“企業が買える形”へ再設計したことだ。日本でも応用可能性はあるが、鍵になるのはAIや流行語ではなく、現場の面倒をどれだけ具体的に減らせるかだろう。
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